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2025/02/12

瞳に映すは何故に

大切な人と離れるのは、すっごく淋しい。

だからわたしは、あの方法をとったんだよ。



それは、ある日の休み時間。教室での出来事。

「———引っ越し?」
「うん。お父さんの仕事の都合でね。ほら、うちって父子家庭だから。あたしだけ残るとかできないから…‥」

そう言って、わたし——ううん、あたしは下を向いた。大好きな人に別れを告げたのに、ちっとも哀しくないなんておかしいから。哀しくなかったけど、あたしは哀しいフリをした。

「しょうがないよね。ごめんね」

そう言い残して、あたしは自分の席に戻った。

あたしの席は麻浩より後ろ。だから、授業中も麻浩がよく見える。
チャイムが鳴るまで、あたしはずっと麻浩を見てた。


放課後、麻浩は怒ったように言った。

「お前な!授業中ずっと見てたろ」
「だってあたしの席、麻浩より後ろだもん」
「それ、理由になってねぇから」

会話をしながらも、あたしは麻浩をずっと見る。すると、自然に顔が笑ってた。

「なーにニヤニヤ笑ってんだよ」
「なんでもない」
「…‥で、見てた理由は?」
「………‥」

視線をそらしてごまか…‥そうとしたけど、顔を覗き込んで防がれた。

「ほれ言え」
「…‥……‥だって、もう簡単には会えなくなるでしょ」

拗ねていったあたしの言葉を、麻浩は黙って聞いててくれた。

「だから、忘れちゃわないように。いつでも、麻浩のこと思い出せるように、見てたの」

相槌いれて、優しく笑って。麻浩は聞いててくれた。単純なあたしの考えを。小さい子みたいな、バカなあたしの行動の意味を。

「わかった。じゃ、今日一日ずっと見てていいよ」
「もうすぐ終わるけどね。もう放課後だし」
「…‥」

痛いとこをついちゃったらしく、麻浩が押し黙る。
もうすぐ終わりだけど、でもそれでもよかった。引っ越しまでにはまだ、充分な時間があったから。

あたしはこの日で一番の笑顔を浮かべてみせた。



「ありがと」





あれから、一人称が変わってしまうくらい大人になった。
電話しかしてないけど、わたしの中の麻浩は、色あせずに消えることなく残ってる。

それはきっと、信じてるから。




たとえ離れてしまっても。

わたしたちはこの空でつながってる。

なによりも、この記憶で。

この瞳に君の姿が残っている限り、ずっと。






瞳に映すは何故に

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2009/03/30 □かるとCAT□ Trackback() Comment(0)

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