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いいから黙って
「木葉っ!」
教室のドアから見慣れた顔がひょこっとのぞく。
「裕貴」
木葉はカバンと日誌を持つと、とことことドアへ向かう。
「木葉、日直の仕事、終わったか?」
木葉は、自分より頭一つ分高い裕貴を見上げる。小学校の頃から見ているこの顔は、出会った時とにはこんなになるとは思わなかったほど、大人っぽくなっていた。だが、コロコロと変わる表情が、彼を子供っぽくも見せていた。
「終わったよ。職員室に持っていくから、昇降口で待ってて」
木葉は裕貴の返事も聞かず、小走りで職員室へ向かった。だが、その足は階段で止まった。
木葉は、ふ、と息をつくと、今度は早歩きで職員室へ向かう。
2人は去年から付き合っていた。だが、付き合うと言っても放課後一緒に帰るのみ。そんな関係に、木葉は不安を感じていたのだ。
(わたしってほんとに裕貴の彼女でいいのかな)
そう思うことは少なくない。どころか、最近増えてきていた。
(いけないいけない)
ガラッ。
「失礼します。2年1組の春村木葉です。日誌を持ってきました。珠洲村先生はいらっしゃいますか?」
「お、春村」
目的の先生は、一番奥でいつものようにコーヒーをすすっていた。
「珠洲村先生。いい加減職員室でコーヒーたかるのやめたらどうですか」
明らかに呆れの声に、珠洲村先生は朗らかに笑う。
「じゃ、春村ん家でコーヒーごちそうになろっかなー」
この言葉に木葉は慌てる。
「やっ、やめてください!」
「じょーだんだよ」
木葉は、思わず回れ右をしそうになった自分をかろうじて理性で止めた。
そして、わざとトゲのある言い方をする。
「じゃコレ!日誌です!では、さようなら!」
「おー、気ーつけて帰れよ。あ、春村には夏川がいるから大丈夫か」
「!!!」
珠洲村先生の一言で、木葉は真っ赤になる。
「おーおー、初々しーなぁ」
この人はどうして教師になれたんだろうと思う木葉である。先生の言葉に完全無視を決め込むと、木葉は職員室を後にした。先生の戯言が聞こえるが、聞かなかったことにする。
「裕貴、待ってるかなぁ」
木葉は、落ち込んだ気分で昇降口へ向かった。
「木葉、遅かったじゃん」
裕貴は待ちくたびれたというふうだ。
そんな裕貴に、木葉はつい思ってもないことを言ってしまった。
「なら、先に帰れば良かったのに」
言ってから、ハッとして口を押さえたがもう遅い。裕貴は険しい表情をしていた。
木葉は、罰が悪いように俯くと、走り出した。
「おい、待てよ!」
裕貴は木葉の腕をつかむと、無理矢理こちらを向かせる。
「今の、どういう意味だよ」
「えっ・・・、あのっ・・・」
「はっきり言えよ」
裕貴の険しい語調に恐怖心を抱き、やっとのことで一言だけ言う。
「きっ、気にしないで」
「気にせずにいられるかよ」
「気にしないでってば」
「木葉っ!」
「やっ・・・!」
なおも逃れようとする木葉を、裕貴はいきなり引き寄せ、唇を奪った。
木葉は、いきなりのことに何が起こったかわからないでいた。だが、数秒もすると自分が置かれている状況を把握する。
「っ・・・!」
裕貴から逃れようともがくが、がっちりと抱かれているので離れることができない。
すると、裕貴が自ら唇を放す。
「裕貴っ!?何すっ」
「いいから黙れ」
そういうと、また唇を奪われる。
何分ほどそうしていただろうか。
裕貴は唇を放し、木葉を抱きしめていた。裕貴は、木葉が落ち着いたのを見るとゆっくりと、子供に絵本を読むように話しかける。
「おれ、バカだからさ。木葉が何で悩んでるのか何考えてんのかわかんないけど」
言葉を区切ると木葉を見つめた。
「話聞くくらいはできるからさ。何でも言ってくれよ。お前が悩んでるとこ、見たくないんだ」
そう告げると、裕貴は真っ赤になった。
木葉はクスッと笑った。恥ずかしがり屋の裕貴が、一生懸命に自分の気持ちを伝えてくれた。それだけで、木葉は充分なのだ。
「ありがと。帰ろっか」
「おう!」
2人は、楽しそうに帰って行く。そんな2人を、職員室の窓から見ていたものがいた。
「夏川のやつも言うようになったじゃねーか」
ふっと笑ったその人物は、木葉に注意されたにもかかわらず、いまだ職員室のコーヒーをすすっていた。
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お題3つ目です。
後2つ、がんばります!
配布元:TV
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